◆命題構文と陳述構文-3
命題(proposition)と陳述(statement)
proposition を closed proposition(真理値が確定した閉命題)へ限定する現在の定義は、論理学・型理論・自然言語意味論において多くの不自然さを生んでいます。
特に proposition を「閉じた真理値対象」に固定すると、階層化・入れ子・未飽和構造の扱いが急激に不自然になります。
本稿では proposition を「closed な真理値対象」に限定しません。proposition は closed であることを要件としない命題一般であり、語・句・節・文のいずれの階層にも現れます。したがって noun や adjective も、単独で closed statement を構成しないという理由だけで proposition から除外されることはありません。
実際の論理体系では、
- 命題族
- 依存命題
- 高階命題
- 文脈依存命題
- 未束縛変数を含む命題
などが日常的に扱われています。
にもかかわらず、これらを proposition と認めず、
- predicate
- formula
- propositional function
などへ分断することで、概念体系が不必要に複雑化しています。
formula は構文的すぎ、predicate は述語限定で狭すぎます。
そのため proposition を一義的にはopen propositionを表すこととし、
- 「closed に限定されない命題一般」
- 「他対象への成立可能性を持つ意味構造」
として再定義することを提案します。
ここで open とは「closed ではない」という意味ではなく、「closed に限定されない」という意味です。
従って closed proposition は proposition の特殊場合になります。
closed に限定したい場合のみ、
- closed proposition
- statement
を用います。
現在の closed 中心定義は、本質的必然というより、20世紀形式論理(古典論理と呼ばれることもある)と初学教育に由来する歴史的慣性に過ぎません。
英語系言語学での命題(proposition)と陳述(statement)
言語学・統語論においても、proposition を closed に限定しない方が自然に整理できます。
言語の基本構造は、
- 「主体 ⇒ proposition を述べる」
という形で捉えられます。
ここで「⇒」の表現方法は言語ごとに異なります。
言語におけるpropositionのopen性には論理性の他
- 構文による外部参照
- 文脈(context)依存性
- 検証対象としたいかどうかの話者心理
が関連してきます。
形容詞(redやbigなど)は構文的に閉じておらずproposition であり、従属節は構文的、または文脈依存の proposition です。
平叙文は statement です。
話者心理としては真実の陳述であり真偽の判定を求める心を持ちません。
形容とは、「当該 proposition が成り立つ名詞」を示すことです。
多くの言語では、
- 名詞
- proposition
を併記する構造を取ります。
形容詞節では、節全体の内容そのものが proposition になります。
目的語や主語の欠落が構文による外部参照となります。
statement内にpropositionを置く形で構造化された論理を構成することができます。
- The book [that she wrote] is interesting.
この例ではbookが主語(Subject)であり、sheは内部論理に閉じ込められた特殊な限定主語(Embedded Subject)です。
if 節や名詞節では、内部内容は statement ですが、それ全体を外部要素の真偽判定のための proposition とします。
it や the のような文脈依存語を含む文は、厳密には完全閉論理とは言い難いものの、話者の文法心理上は statement と呼ぶことが許されます。
日本語での命題(proposition)と陳述(statement)
日本語では「は」が陳述(statement)を構成し「が」命題(open proposition)を構成します。
「は」が主語(Subject)を指し、「が」が内部命題の限定主語(Embedded Subject)を指すと言えます。
英語との類似性もあります。
- 彼女「が」書いた本は面白い
- This book that she wrote is interesting.
主語(Subject)は本(book)であり「は」で示されます。「が」は節内に限定された特殊な主語(Embedded Subject)である彼女(she)を示しています。
日本語ではこのproposition彼女「が」書いたを形容詞と同様に補語としても用いることができます。
- その面白い本は彼女「が」書いた
- This interesting book is that she wrote.(通常非文)
英語では関係節 proposition を直接補語化しにくいため、通常は非文となります。
「は」と「が」の差は次のような文でも示されます。
- 彼女は賢い;自然な陳述
- 彼女が賢い;彼女は限定主語であり、文脈想定が無ければ、不自然
- 犬は走る;汎事象に関する陳述
- 犬が走っている;話者環境に結び付く限定事象
open/closeの用語セット案(chatGPTによる)
open propositionとclosed propositon対する一義的(1単語での)用語として適切なものをchatGPTに挙げさせました。
| Open側 | Closed側 | コメント | |
|---|---|---|---|
| 英語圏には受け入れられやすい | |||
| predicate | proposition | 1階論理学との整合性高 ただし、高階論理と相性が悪い | |
| issue | proposition | 「問い」と「確定済み命題」 | |
| frame | statement | 切り取り枠/言い切り | |
| issue | assertion | 「問い」と「採択」 | |
| query | assertion | 疑問/断定の対 | |
| potential | actual | 哲学寄り | |
| virtual | actual | コンピュータ科学的 | |
| latent | explicit | 潜在/顕在 | |
| schematic | stated | スキーマ/陳述 | |
| opener | closer | 独自色強 | |
| groundless | grounded | 接地理論寄り |
一応proposition-statementが最も収まりが良さそうではあります。
陳述と命題の揺れ
命題(proposition)の扱いに関しては、本ブログの中で揺れ動いています。
当初の考え ◇命題構文(概念構文)と陳述構文:「が」と「は」 では命題をopen propositionと捉えています。
◆「は」は主語を示し、「が」は述語を作る では、命題をclosed propositionとし、open propositionを述語(predicate)として論を展開しました。
色々検討した結果、論理学と言語学の分断をなくすためにも、命題(proposition)は基本的には開命題を表すのが適当であると判断しました。
ただし、propositionは閉命題であるという強い反応があるため、open propositionとclosed propositionを使うことを基本とします。
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