◆「は」は主語を示し、「が」は述語を作る
「は」は主語を明示する
言語の基本構造は"主語(subject) ⇒ 述語(predicate)"です。
何か(主語:subject)に対して、どうである(述語:predicate)と述べるものです。
日本語では⇒は主語マーカー「は」(Subject Marker)で明示され、ラテン語はじめ屈折語では名詞の後端で明示されます。英語では⇒は語順や動詞一致により表現され、独立したマーカーとしては現れません。
"主語⇒述語"を"文/基本形(sentence/canonical-form)"と呼びます。
| 主語 | ⇒ | 述語 | 文 |
|---|---|---|---|
| 彼女 | は | 賢い | 彼女は賢い |
| 彼女 | は | 走る | 彼女は走る |
| 彼女 | は | 学生です | 彼女は学生です |
| she | (is) | is smart | She is smart. |
| she | (runs) | runs | She runs. |
| she | (is) | is a student | She is a student. |
| (英語では⇒は後ろの動詞がその役目を果たします) | |||
主語は「は」で明示しますので、「は」を用いなければ、主語が省略されたことが分かります。そのため、主語を明示する必要のない場合は、省略可能です。特に話者環境に関して述べる場合は通常「は」による主語表示を省略することが普通です。
文は基本形をベースに要素の省略(Ellipsis)や接続詞を用いた連結(Concatenation)等の変形(transformation)を受けることがあります。
「が」は述語を構成する
述語には「賢い」「走る」「学生です」などの基本述語(Primitive Predicate)のほか、文と似た形で構造化した構造述語(Structured Predicate)があります。
構造述語は文における「は」の代わりに「が」(Entity Marker)を使用します。文の主語(subject)に当たるものを体(Entity)と呼びます。「体(Entity)⇒域内述語(Domestic Predicate)」構造です。
| 文: Sentence | 主語 subject | 「は」 Subject Marker | 述語 Predicate |
| 構造述語: Structured Predicate | 体 Entity | 「が」 Entity Marker | 域内述語 Domestic Predicate |
英語には「が」の持つ述語構造(述語位置に同一構造をそのまま置換可能なsyntax)を作る機能は存在しません。この機能を持つ言語はあまり多くありません。
構造述語は文中の述語の代わりに使用できます。
| 体 | ⇒ | 域内述語 | 構造述語 |
|---|---|---|---|
| 頭 | が | 良い | 頭が良い |
| 主語 | ⇒ | 述語 | 文 |
|---|---|---|---|
| 彼女 | は | 賢い | 彼女は賢い |
| 彼女 | は | 頭が良い | 彼女は頭が良い |
例えば、「赤い」「red」が
反射光スペクトル「が」650nmに偏っている
The reflected-light spectrum is biased toward 650 nm.
の様に説明できるとして、
リンゴは赤い
の「赤い」を説明文(構造述語になっている)の形のまま置換し
リンゴは反射光スペクトル「が」650nmに偏っている
と表現できます。
英語はこのような構文の形を保った置換は出来ません。
構造述語単独使用と外部参照性
構造述語は主語が明白な場合単独で使用されることもあります。
例えば話者の環境に関して述べる場合は主語を示さず構造述語が単独で使用されるのが普通です(「私の今いる環境は雨が降っている」ではなく「雨が降っている」単独使用)。
本来、述語はそれ単体では成り立たず、上位から参照されて初めて成り立つ、外部参照性を持つものです。
この性質を持つため、主語/外部情報が定まらない状態での単体使用は意味的に未解決な懸垂状態で不自然な表現となります。
| 彼女は賢い | 自然(彼女は主語) |
| 彼女が賢い | 不自然(誰が賢いかを問う環境などが要求される) |
| 雨は降っている | 少し不自然(通常は環境に関して述べる) 雨は降っていますか?などを問われ、雨を主語にする場合はこう答える |
| 雨が降っている | 自然(話者環境が暗黙の主語) |
これらは「が」が示すのが主語(subject)ではないことの現れです。
述語の階層
構造述語内の域内述語には基本述語(Primitive Predicate)の他構造述語(Structured Predicate)も使えます。構造述語を使うと階層化した表現ができます。
このクラスでは彼女が一番頭が良い
理屈上は無限に階層化可能ですが、現実的には階層化することはめったにありません。
述語の接続
述語は接続詞で接続できます。述語と構造述語も区別なく接続できます。
彼女は気立てが良く、頭が良く、美人だ
主語「彼女」、述語「気立てが良く、頭が良く、美人だ」
She is kind, smart and beautiful
この文の主語はただ一つ「彼女」です。
述語は名詞を形容することもできる。「の」との違い
述語は外部参照性を持つため、動詞の連体形、形容詞などは、名詞の形容にも使います。
- 彼女は賢い
- 賢い彼女は嘘を見抜く
- 彼女は笑う
- 笑う彼女はかわいい
構造述語も同様に使用できます。
- 彼女は頭が良い
- 頭が良い彼女は嘘を見抜く
名詞、形容名詞は述語として使用するには「だ」「です」などの終端詞が必要で、 形容に用いるには「状態名詞+の」、「形容名詞+な」の形とする必要があります。
- その茎は緑です
- 緑の茎は草本の特徴の一つです
- 目標は明確です
- その計画は明確な目標を定めています
構造述語も同様に使用できます。
- 茎が緑の植物は草本目に多い
- それは目標が明確な計画です
事物限定(範囲格)「の」を用いた類似構文がありますが、構造が違います。
| 彼女の書いた本 | 書いたが述語。彼女という事物限定での「書いた」本 |
| 彼女が書いた本 | 述語「彼女が書いた」本 |
このため、
| この本は彼女の書いた | 不成立(非文);述語を構成しないため |
| この本は彼女が書いた | 成立;「彼女が書いた」という構造述語 |
となります。
補足:Entityという用語
構造述語の主格に対してEntityという抽象的な用語を割り当てています。
構文は「主格⇒述語」であり、⇒部が「が」となることを除いて文の形式を踏襲したものとなっています。違うのは外部への/外部からの参照という主語の従属性、外部束縛性です。
これらを踏まえ次のような二義的名称も考えられます。
| 従属主語 | (Subordinate Subject) |
| 外部束縛主語 | (External Bound Subject) |
| 外部依存主語 | (External Dependent Subject) |
| 述内主語 | (Intrapredicative Subject) |
| 項主語 | (Argument Subject) |
補足:外部参照性と「命題」
次のように言うこともできます。
「は」文
→ 自己完結構文(self-contained structure)
「が」構造
→ 外部依存構文(externally dependent structure)
外部参照性は論理としてみたとき、
| 「「は」によるX⇒P | 閉命題(closed proposition) |
| 「「が」によるX⇒P | 開命題(open proposition) |
命題を検証事項として、何かに関して命題が成り立つか、即ち開命題を「命題」と呼ぶとすると、閉命題は真偽判定を要求しない「陳述/宣言」と呼べます。
| 閉命題(closed proposition) | 陳述(Statement) |
| 開命題(open proposition) | 命題(Proposition) |
| 「は」によるX⇒P | 陳述構文(Statement):真として提示 |
| 「が」によるX⇒P | 命題構文(Proposition):これ自体が命題として提示される |
| PはProposition | |
述語理論などでもPropositionをこのように定義しPredicateをPropositionで置き換えれば、atomic formulas(原子式)のterm制限適用と述語の混乱、formulas(原子式に対し ¬,∧,∨,→ と ∀,∃ を適用)の用語混乱、be動詞の混乱、sentenceの混乱もなくなるはずです。
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