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◇紅葉(こうよう)と紅葉(もみじ)と楓(カエデ)と楓(フウ)

 紅葉(こうよう)と紅葉(もみじ)

子供の頃「もみじ」とは紅葉(こうよう)の事だと思っていました。
「秋になり、葉が赤く色づくこと、色づいた状態、色づいた葉」を「もみじ」と呼ぶと認識していたのです。

「ハゼのモミジ」にも何の違和感も感じていませんでした。

「もみじ」の代表が例の五裂葉の種「カエデ」です。このどれかの園芸種を例えば「えどもみじ」などと、園芸界で称する事には何の問題もありません。

しかし、植物種の正式和名として「もみじ」を使う事には抵抗を感じてしまいます。

カエデの種の総称名称としては

  • 明治の牧野富太郎らが近代植物学を導入し、属名として「カエデ」(Acer)を採用
したようですが、残念ながら、各種の和名としては
  • 江戸時代の園芸市場で用いられていた「もみじ」が採用
されたようです。

XXXモミジの名を持つカエデ属の種としては次のようなものがあります。

  • イロハモミジ (Acer palmatum)
  • オオモミジ (Acer amoenum)
  • ヤマモミジ (Acer pictum subsp. mono)
  • ハウチワモミジ (Acer japonicum)
  • コハウチワモミジ (Acer sieboldianum)[小ハウチワモミジ]

「カエデ」は平安期の辞書『和名類聚抄』(10世紀末)にも「楓(カヘデ)」の記載があり、植物名として早くから存在していました。

植物の和名として「カエデ」が使われるのは園芸で通称のなかった外来樹や実用樹に明治以降につけられたものです。
XXXカエデの名を持つカエデ属には次のようなものがあります。

  • トウカエデ(Acer buergerianum)[唐楓]
  • イタヤカエデ(Acer pictum)[板屋楓]
  • ウリハダカエデ(Acer rufinerve)[瓜膚楓]

カエデ属の分類階層は次のようになっています。

  • 門(Phylum / Division): 被子植物門 (Magnoliophyta)
  • 綱(Class): 双子葉植物綱(Eudicots, 真正双子葉類)
  • 目(Order): ムクロジ目(Sapindales)
  • 科(Family): ムクロジ科(Sapindaceae)
  • 属(Genus): カエデ属 (Acer)

古典での「もみじ」は紅葉している風景を主に指しており、樹木種別は問いません。
樹木種としての「カエデ」の古い呼び名「カヘルデ」は奈良時代(8世紀・『万葉集』)に登場しています。
敢て樹木種を特定したい場合次のようにされていました。

  • わがやどに もみつかへるで みるごとに いもをかけつつ こひぬ日はなし
    大伴田村大嬢(おおとものたむらのおおいらつめ)作
    奈良時代後期(8世紀)『万葉集』第8巻-1623番歌
  • 蔦紅葉(つたもみじ) 最一つ家をほしげ也
    小林一茶
    享和期(1801–04)
  • 中腹を動かぬ櫨の紅葉(ハゼのもみじ)かな
    松尾寒蝉
    江戸期

折角「カエデ属」という命名をしたのなら、古典を尊重し、植物の正式和名としては、江戸の園芸市場のコマーシャリズムに則ったキャッチ―な名称としての「イロハモミジ」などを採用せず「イロハカエデ」などとすべきだったのだと思います。

 楓(カエデ)と楓(フウ)

引っ越し先のベランダのそばに楓(カエデ)の葉を大きくしたような葉を持つ木がありました。

googleで調べると「モミジバフウ」と出てきました。

当初「モミジ・バフウ」と思い、「バフウ」を調べたのですが、見当たりません。
良く調べると「もみじば(紅葉-葉)フウ(楓)」だとの事。

えっ?フウ(楓)?楓=カエデじゃないの?

そうなんです。楓は本来カエデではなくフウなのです。

フウ(楓)

  • 門(Phylum / Division): 被子植物門 Magnoliophyta(または被子植物 Angiosperms)
  • 綱(Class): 双子葉植物綱 Magnoliopsida(真正双子葉類 Eudicots)
  • 目(Order): キントラノオ目 Saxifragales
  • 科(Family): マンサク科 Altingiaceae
  • 属(Genus): フウ属 Liquidambar
は原産地は東アジア(中国南部・台湾)および北米で、日本には自生していません。

日本に入ったとき、葉の形がカエデ属と似て掌状に裂けているため、「楓」の字をカエデにも転用してしまいました。
つまり楓(カエデ)は誤用なのです。

カエデは中国にも自生し漢字(槭=カエデ)もありました。

しかし、

  • 平安時代に輸入された漢詩・漢籍で「楓(フウ)」が頻繁に出てくるため、日本人は自然に「楓」を秋の紅葉樹=カエデにあてはめた
  • 「槭」は本草の専門的な字にとどまり、一般の文芸や語彙としては日本に定着しなかった
ようです。

明治の先人たちがこの「モミジ葉フウ」を「カエデ(槭)葉フウ(楓)」と命名していれば、カエデにまつわる混乱(カエデ-モミジ、槭-楓)が一気に解消されていたのにと残念です。
牧野富太郎に頑張って欲しかった。

 AI画像判定の混乱(雑談)

実はこの「モミジバフウ」は当初、冬で葉が完全に落ちた状態でgoogleおよびchatGPTに問うと「プラタナス」と回答されました。
なんと!葉が落ちた状態の「ナンキンハゼ」もプラタナスと回答されました。
どちらも枝が瘤状になっていてその点はプラタナス風ではあったのですが、樹皮が全く違います。

類似性,誤判定理由を聞くと

  • モミジバフウ・ナンキンハゼとプラタナスは、枝の外形が似るため、展葉前後は誤認されやすい。
  • 特にAI画像判定では「樹皮の質感」より「葉の形」「枝の瘤」を優先して学習しているため、プラタナス判定が出やすい。
との事。

ちなみにプラタナスは

  • 門(Phylum / Division): 被子植物門 (Magnoliophyta)
  • 綱(Class): 双子葉植物綱 (Eudicots)
  • 目(Order): ブナ目 Fagales とされることもあるが、現在のAPG分類体系では モクレン類(Eudicots, コア真正双子葉類)内で独立目
    → 正しくは モクレン綱 Eudicots → プラタナス目 Proteales
  • 科(Family): スズカケノキ科 Platanaceae
  • 属(Genus):スズカケノキ属 Platanus
と「目」が混乱したものとなっています。

なお、ナンキンハゼはハゼの仲間ではなく、かぶれの心配がありませんので、街路樹や庭木として植えられます。ハゼと同じように深紅の紅葉("もみじ"と呼びたい)が見られます。

ナンキンハゼの分類階層は以下の通り

  • 門(Phylum / Division): 被子植物門 (Magnoliophyta)
  • 綱(Class): 真正双子葉綱 (Eudicots)
  • 目(Order): マツブサ目 (Malpighiales)
  • 科(Family): トウダイグサ科 (Euphorbiaceae)
  • 属(Genus): ナンキンハゼ属 (Triadica)
  • 種(Species): ナンキンハゼ (Triadica sebifera)

ハゼノキの分類階層は以下の通り

  • 門(Phylum / Division): 被子植物門 (Magnoliophyta)
  • 綱(Class): 真正双子葉類綱 (Eudicots)
  • 目(Order): ムクロジ目 (Sapindales)
  • 科(Family): ウルシ科 (Anacardiaceae)
  • 属(Genus): ウルシ属 (Toxicodendron)
  • 種(Species): ハゼノキ (Toxicodendron succedaneum)

子供の頃、近所の八幡様の境内にハゼの木が立っていて、人によっては近づいただけでかぶれてしまうとされていたのが記憶に残っています。ウルシ属なんですね。
目はカエデと同じムクロジ目。

 さらにどうでも良い雑談、風と楓

スピッツのCDを購入し、iTunesにリッピングしたところ「楓(かえで)」のタイトルが「風」になっていました。ふう~

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