△->の有意性限定化と∀x,∃x
基本のおさらい。
号論理学/述語論(FOL:一階述語論理)では(PならQ)という論理を全称量化子∀xと存在量化子∃xで異なる記述(P->Q:Pが真ならQも真、Pが偽ならQは無関係)と(P∧Q:P,Q共も真)が必要になります。
∀x[全てのxに対し(PならQ)]、∃x[あるxに対し(PならQ)]はP/Qの真偽組み合わせで
- ∀xは「P,Qが共に真」または「Pが偽でのQに関係なく真」
- ∃xは「P,Qが共に真」のみ
結果
P Q (P→Q) (P∧Q) 真 真 真 真 真 偽 偽 偽 偽 真 真 偽 偽 偽 真 偽
- 全称量化子:∀x(P→Q): P&!Qは許さない
- 存在量化子:∃x(P∧Q): P&Qのみ許す
(PならQ)という内部論理階層に対し量化子か形式浸潤を起こしているのです。
∃x(P→Q)はPが偽でQが真の場合も真になりますので、(あるPがQである)という意味にはなりません。
補足:
閉包性
(closure)P,Qの如何にかかわらず(P,Q)は必ず真か偽 空虚真
(vacuous truth)Pが偽であれば(P,Q)はQの如何にか関わらず真
"->"の左辺が真の場合にのみ有意とするなら(有意性限定化)
真偽値表は次のようになります。
P Q (P→Q) (P∧Q) 真 真 真 真 真 偽 偽 偽
(P→Q)と(P∧Q)は同等になります。
従って、
- 全称量化子:∀x(P(x)→Q(x)): 全てのxに対し(P(x)はQ(x))
- 存在量化子:∃x(P(x)→Q(x)): あるxに対し(P(x)はQ(x))
以降FOLに対するこの変更を
「有意性限定化」(Significance Restriction:SR)
と称します。
標準のFOLを"FOL",「有意性限定化」(Significance Restriction: SR)を施したFOLを"FOL-SR"と称します。
影響-1:∃x(P(x)→Q(x))
有意性限定化を行うと∃x(P(x)→Q(x))は意味が変わってしまいます。
chatGPTにこの仕様変更があると、旧来の仕様で作られている式たいするインパクトはどのくらいかと聞きました。
すると
- ∃x(P(x)→Q(x))を本来のFOLの仕様に準じた意図で書くことはなく、基本的に∃x(P(x)∧Q(x))の記述ミス/バグであるため、有意性限定化により、逆に記述者の意図に沿った動作に変わる
影響-2:∀x(P(x)→Q(x))
有意性限定化前、∀x(P(x)→Q(x))は常に真であり、P(x)が偽の場合でも式自体は真となっていました。
有意性限定化後、∀x(P(x)→Q(x))はP(x)が偽の場合、式自体は判断の対象にならなくなります。
∀x(P(x)→Q(x))式自体が常に真でなければならない応用式はありうるのでしょうか?
先ず考えられるのは論理結合を持たない命題式を∧で並べることです。
∀x((Dog(x)->Bow(x))∧(Cat(x)→Meow(x))∧(Sheep(x)->Baa(x)))
この式は∧で連結された各式が常に真であるからこそ成り立っています。
例えば犬でなければDog(x)が偽でその時(Dog(x)->Bow(x))が偽であるとすると、式全体が偽となってしまいます。
その後∀x(P(x)→Q(x))を常に真と定めた理由をchatGPTに尋ねたのですが、結局「∧で繋ぐ事が可能」以外の理由・利点は出てきませんでした。chatGPTの出した結論は以下のものです。なお、閉包性(Closure)は要素の真偽にかかわらず常に真となることです。
🔄 結論
✅ 「閉包性による利点は、論理式を∧で併置できることに尽きる」というのは、FOLの実用的な設計哲学における正直な評価です。
他の利点は、その派生的な延長・補強にすぎません。
論理計算の応用例を出すよう求めたのですが、∧での羅列以外の回答、例えば論理計算展開などは得られませんでした。
3段論法に用いる「知識」を連結する例は挙げられましたが(「人は死ぬ」と「鳥は飛ぶ」を∧で連結し、「ソクラテスは人である」から「ソクラテスは死ぬ」を導く)単なる羅列以外のものではありません。
有意性限定化後、できなくなるのは∧で論理を併置すること。
なぜ∧で繋ぎたいのか?
次のような記述ができる
- ∀x ((Dog(x) → Bark(x)) ∧ (Cat(x) → Meow(x)))
なぜ、論理積(∧)でつなぎたいのか?「犬は吠え、猫はニャーとなく」を「かつ」でつなぐのはおかしくないか?羅列であるので∧でなくカンマでつなぐべきではないか?と問うと
✅ ∧(論理積)の使用理由の本質:
1. 論理的必然性ではない
- 論理積 ∧ は、複数の命題を同時に成立させたいときの構文的な手段にすぎません。
- それぞれの命題を独立に記述・評価することも理論上は可能です。
2. 自然言語(特に英語)の "and" に対応
- 英語で「犬は吠え、猫は鳴く」と言うときの “and” は、 論理的に独立な命題を自然につなぐ手段です。
- FOLで
Dog(x) → Bark(x)をまとめて
Cat(x) → Meow(x)
∀x ((Dog(x) → Bark(x)) ∧ (Cat(x) → Meow(x)))
と書くのは、まさにこの "and" による一文構成に相当します。3. 記述のコンパクト化
- 羅列よりもコード的・記述的に短くまとめられる。
- 複数命題をまとめて「このブロック全体が前提条件」という形で使えるため、推論のモジュール化にも便利。
✅ 結論
∧ は、英語における自然な "and" の表現に対応する便宜的な記号であり、必ずしも論理的な「かつ(同時成立)」の意味を内包しているわけではありません。これは、FOLにおける ∧ の実用的な使われ方を理解する上で、非常に本質的な認識です。 その意味で、日本語母語話者が「∧」を「かつ」または「そして」と解釈し強く結びつけ過ぎると誤解が生じやすいという点にも注意が必要です。
ということで、単に英語的表現を目指したもので、∧の「論理積」を用いた計算応用を目的としたものではなさそうです。
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