◆日本の古曲の音階は第3音を抜いた6音が基本
E-フリージアン:Phrygianから第3音を省いた
日本古来の音階の基本は6音
日本の明治より前の音階は基本は6音で、ドレミでいうと「ミ」で始まる音階(教会旋律のフリージアン:Phrygianに類似)と、「レ」で始まる音階(教会旋律のドリアン:Dorianに類似)があります。
いずれもオクターブ7音の内第3音が省略されます。omit3
教会旋律と類似した音階ではありますが、第3音を省略した「虚無音階」とでも呼ぶべきものとなっており、教会旋律に付される和音は適用できません。
この他フリージアン、ドリアンから主音を5度上(4度下)にずらしたロクリアン「シ」、エオリアン「ラ」も使われる場合がありますが、この場合は第3音、第6音が省略され、音の構成自体はフリージアン、ドリアンの3,7音を避けたものと同じになっています。これらはフリージアンの属音で終止する、ドリアンの属音で終止するとみなすこともできます。
第3音抜きの6音が基本で一部5音の曲があり、さらに童歌などでは3音、4音と省略される場合もあります。
フリージアン:Phrygian-omit3;通りゃんせ,うさぎ,黒田節など | |
フリージアン:Phrygian-omit37:さくらなど | |
ヒポフリージアン(ロクリアン:Locrian)-omit36:子守歌(陰旋律)など | |
フリージアン:Phrygian:春の海(旋律) | |
ドリアン:Dorian-omit3:君が代など | |
ドリアン:Dorian-omit36:越天楽など | |
ヒポドリアン(エオリアン:Aeolian)-omit36:子守歌(陽旋律/江戸節) | |
ドリアン:Dorian:スカボロフェアなど | |
フリージアンomit3
フリージアン:Phrygianの第3音を省いた楽曲例を挙げます。
「通りゃんせ」は日本古曲の典型的な音階形式をとっています。主音(ミ:E)で始まり、途中の補節が属音(シ:G)で終わり、主節が(ミ:E)で終わります。
「うさぎ、ウサギ」は第2音(ファ:F)から始まる形式です。主音(ミ:E)で終わります。
6音からなりますが、最後の解決音レ:D-ミ:Eのレの音を数えない考え方もあるようですが「通りゃんせ」でも数か所でDを使っており、単に1回しか通らなかったと解釈すべきです。
「黒田節」は類似したフレーズを4回繰り返します。「越天楽」が原曲であるという話もあるようですが、確認できませんでした。
各フレーズの後半が同じ形をとっています。主音(ミ:E)で終止します。ただし、1,2,4回目は主音(ミ:E)で始まり3回目が属音/仮終止音(シ:B)で始まります。
前半は開始音がシ:B-レ:D-シ:B-ファ:Fの形で最後を盛り上げる流れを作っています。
フリージアンomit37
フリージアン:Phrygianの第3音、第7音を省いた楽曲例を挙げます。
「さくら」は第4音(ラ:A)で始まり主音(ミ:E)で終わります。
ドリアンomit3
ドリアン:Dorianの第3音を省いた楽曲例を挙げます。
「君が代」は雅楽の旋律に基づき内省の雅楽師である林廣守1880年(明治13年)作曲されました。
主音(レ:D)で始まり主音(レ:D)で終わります。
ここの楽譜の強弱指定は「八千代に」が感嘆し「や!」と「千代に」のように聞こえるのを嫌って付けましたが、通常このような指定はありません。
現在演奏される「君が代」はドイツ人音楽家であるフランツ・エッケルトにより編曲されたもので、開始部と終止部を除いた部分に和音が付されています。
本来、最後に和音がスッと消えるところがとても魅力的なのですが、残念ながら良い音が得られなかったので、次の編曲では日本風の和音を付加しました。
ドリアンomit36
ドリアン:Dorianの第3音、第6音を省いた楽曲例を挙げます。
「越天楽」は古い雅楽で、歌を付した「越天楽今様」もあります。ここの例は「越天楽今様」です。4個のフレーズからなり、いずれのフレーズも主音(レ:D)で終わります。
ロクリアン(ヒポフリージアン)omit36
ロクリアン:Locrainの第3音、第6音を省いた楽曲例を挙げます。
これはフリージアンomit37の属音開始(ヒポフリージアン)と見做すことも可能かもしれません。
「子守歌(陰旋律):ねんねんころり」は第5音(ファ:F)で始まり、主音(シ:B)で終わります。
フリージアンと考えた場合は第2音で始まり属音で終わります。
エオリアン(ヒポドリアン)omit36
エオリアン:Aeolianの属音を主音とした上で第3音、第6音を省いた楽曲例を挙げます。
これはドリアンomit37の属音開始(ヒポドリアン)と見做すことも可能かもしれません。
「子守歌(陽旋律/江戸節):ねんねんころり」は第5音(ミ:E)で始まり、主音(ラ:A)で終わります。
ドリアンと考えた場合は第2音で始まり属音で終わります。
春の海(Phrygian:参考)
「春の海」は宮城道雄が昭和4年に発表した曲で、琴のパートは日本の伝統的な音階フリージアン:Phrygian-omit36で書かれています。和音は第2音も省きE7sus4となっています。尺八によるメロディーは3音を加えたフリージアン:Phrygian-omit6となっています。途中下降経過音中に6も出現しますので、厳密にはフリージアン:Phrygianとなっています。
原曲は尺八と琴ですが、抜粋し単純化したピアノ1段楽譜を載せます。
[A]から始まるメロディー部でソ(G)が出現しています。この音は尺八が演奏し、中間部まで箏では奏でられることはありません。[D]の3小節目では経過音としてド(C)が出ます。
編曲について
イントロ部とコーダ部の箏のアルペジオのリズムは最初のEを少し長めにしてあります。
トレモロはうまく再現できなかったので単純和音としました。
ペダルは踏みっぱなしでよいと考えますが、濁りが気になる部分で抜きました。
1ページに収めたかったので中間部を省略しました。[D]のパートはそのうちもう少し印象的な部分に置き換えたいと考えています。
調弦と「押し手」「替え手」
chatGPTによると「春の海」の調弦はレソラシレミソラシレミソラとなっていますが,ソでなくファに調弦されるものと思われます。オクターブ上のソはそのままでファはミの押し手で出します。
途中(今回の楽譜では省略した部分)で駒を移動しラ(A)をソ(G)に「替え手」を行います。
中間部ではファ#が出ますが、これはファの「押し手」で得ます。
・・多分です
スカボロフェア(Dorian:参考)
「スカボロフェア」はイギリスの民謡(ケルト音楽?)を元にした曲でドリアンに依っています。
ケルト風の楽曲でなじみのある曲はこの曲と「グリーンスリーブス」くらいでしょうかね。
楽譜ではドリアンの特徴的な音(シ:B)に▽マークを付けました。「パセリ、セージ、ローズマリー、and、タイム」の「リー」部です。この音が出る所で一気に民族音楽の雰囲気となります。
サイモンとガーファンクルはこの曲に印象的な伴奏とカウンターパートを付けています。
演奏はE-Dorianとなっています。
イントロ部と、カウンターパートの一部を入れた楽譜を載せます。D-Dorianとしています。
コーダ部に属音に解決するようなメロディーを置いてあります。Dorianは主音の他属音での終止も受け入れられそうです。最後の和音は9と11を入れ3を排除しています。
6音あるのになぜ5音というのか
この記事を書こうと思った動機は極めて単純です。
日本の音階は5音からなっているとされ、「君が代」「通りゃんせ」「黒田節」などが挙げられていたのですが、6音有るじゃん!と。。
6音の楽曲には色々5音だという理屈が付けられるようですが、こじつけのように見えます。
箏の調弦が5音であることが関係しているんでしょうかね。ただ箏は「押し手」で半音上げられますので、例えば、DEGABという調弦でもEをF,BをCとして鳴らす箏ができます。
色々な研究はあるみたいですが、差し当たってこの記事は何も知らずに書いていますので、調べが進むと修正する可能性は大です。今の時点では一般的な音階の呼び名も知りません。
「日本の音階はドリアンだ」という記述は見ましたが「日本の音階はフリージアン類似とドリアン類似で、第3音を抜いたものだ」という記述は見つかっていません。
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