◆ダークマターとビリアル平衡の無理



銀河の質量を見積もる。ビリアル平衡?
ウィキペディアでダークマターを調べると次のような記述があります。
ビリアル定理によると、ビリアル平衡にある天体の質量 M, 典型的な距離スケール R, 典型的な速度スケールV は
という関係にある。
この式は球対称の質量空間の円形軌道の軌道速度式です。良く見る円軌道速度式の変数を左右入れ替えたものです。
これは質量が中心部にのみあるとした場合「ケプラーの法則」になります。
単なるニュートン力学の「初等力学」レベルの解です。
ビリアル定義も仮定の置き方によっては「ケプラーの法則」と同じ式を得ますが、おそらく、この式は勘違いによるものだと思います。
ビリアル平衡とは
てことで「ビリアル平衡」ってなんじゃい?とnetで見てみると、
束縛状態にある複数粒子の動作の統計についてのもので、
*ビリアル定理と自己重力系
てのがあました。

どうやらどこか中心となる点があり、その周辺を重力により束縛された形でランダムに粒子が飛び回っている状態の質量・運動エネルギー・空間(中心からの距離のみ)統計推定のようです。
説明の中に次の項
* 自己重力系の例:銀河団
もありました。
銀河団の質量,半径,メンバー銀河の視線方向の速度 (分散) で をそれぞれ M,R,とするとビリアル定理より
となる
速度は銀河全体ではなく銀河に属する星の、地球からの視点方向の動きの分散です。
動きは等方的(方向に偏りがない)だと「仮定」されています。
視点方向の動きの分散とは

星の運動を視点方向で調べるのは、星一個一個の直接の動きを見るのではなく、近づく星、遠ざかる星のドップラー効果を見ます。
星一つ一つに対応する周波数偏移を見るのではなく、全体としての散らばりを見ます。
それどころか、銀河一個一個でもなく銀河団全体光を計測するようです。
銀河団全体を計測した上で、銀河一個一個の半径を推測し、明るさからの重さを推測し、ビリアル平衡にあると仮定し、ダークマターを導きます。
どうにもすっきりしません。
ビリアル平衡を円盤銀河に適用できるか
ここで疑問が沸きます。
銀河ではバルジ部では軌道方向に偏りはないと思われますが、円盤部は明らかに方向性を持ちます。
どの方向から見るかによって視点方向の速度分散は全く異なるはずです。
円盤面に垂直方向から見る
円盤面から垂直の方向から見ると、円盤面の視点方向の動きは極めて小さく、バルジ部分以外は有意な情報が取れません。

有効なデータ取得がバルジ部に限られるにもかかわらず、計算で用いるRは銀河全体となります。
つまりRが大きくとられるためMは実際の質量より大きく計算されることになります。
円盤面に沿った方向から見る
例えば円盤部を円盤面に沿った方向から見ると、動きは円盤面と垂直方向は極端に少なく、多くは視点方向の正負となります。
このため、
は等方的と仮定したものに比べ大きなものとなります。

つまり、質量Mは本来の質量より大きく見積もられる事になります。
ビリアル平衡を銀河団に適用できるか
重力束縛状態のビリアル平衡は集団に属する質点がそれぞれ同等に束縛されていると仮定します。
集団の中に構造があり、それに束縛されているということは想定されません。
銀河の集団があって、仮にビリアル平衡状態だったとしても、それは銀河を点と見做した場合の速度を想定計算できるだけです。
銀河の中の星は銀河に束縛されているとはいえ銀河全体の平衡状態とは別の統計情報となります。
銀河内の動きが加わりますので、当然銀河を点を見做した速度より大きくなります。

ダークマターは不適切なビリアル定義適用による見積ミス
速度成分が等方的ではない円盤銀河にビリアル定義を当てはめることには無理があります。
太陽系の観測結果に過ぎない「ケプラーの法則」を適用しダークマターを導き出すという愚行は最近影を潜めましたが、代わりりのビリアル定義も銀河に適用できるものではありません。
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