□3色色覚は笑顔のために進化した
3色色覚は白のため、では白を見るのはなんのため
以前の記事◆虹と雲を見る;「3」原色の理由,なぜ「2」では駄目か で3原色の理由は「白」を見ることにある、と書きました。
単純にカラフルな画像を得るためなら2色で十分であることを ■色相拡張による2色型色覚シミュレータ で示しました。
では、なぜヒトは「白」を見るように進化したのでしょう?
これは表情、特に目と歯を見るためだと考えています。
人の白目が他の動物に比べ極めて広いのも3色色覚に関係しているはずです。
赤ん坊にとって、そして親あるいはその役割をになう大人にとって
相手の目から意図をくみ取ることは極めて重要なことです。
大人どうしでも共同意識を持つためには表情の読み取りは重要です。
もちろん、2色型の動物にとっても視線は極めて重要なものです。
しかしそれは主に警戒心によるものです。
ヒトが強い社会性を持つための基礎としての視線認識とは違います。
白を感じなくても、明るさの差から視線を読み取ることはできます。しかし、 他の色とは異なる「白」の中の黒目はより目立つはずです。
人の特徴であり、もっとも重要な表情は笑顔
明確な笑顔を持つ動物はヒトだけです。
ヒトの進化の中で笑顔が重要な役割を果たしたことは間違いありません。
笑顔を特徴づけるのは「目」と「歯」です。
そしてどちらも「白」。
3色色覚により、単なる色ではなく「白」を見る目を得た、大きな理由は この笑顔にあると思います。
雑談:モナリザの微笑とカルピスの笑顔
歴史上もっとも有名な笑顔といえば「モナリザの微笑」でしょう。
ヒトはこのような微妙なものまで読み取るようになっています。
昔のカルピスのラベルにはカリブ風の帽子をかぶって
笑顔でカルピスを飲んでいるイラストが描かれていました。
エネルギーと安らぎを同時に感じる、とても素晴らしい笑顔で、
強く記憶に残っています。
笑顔は人間にとってとても重要な心の表明であるにも関わらず、芸術作品 で描いているものは少ないですね。カルピスのラベルは芸術性の高い 素晴らしいものだったと思います。
昔書いたアフリカショートショート
以前の記事◇鳥の姿とサイズ;スズメ目は崩壊するか、 ◆目のリアリティ(怪獣=人間編)に 昔書いたアフリカ・ショートショート(のさらに短縮版)を載せましたが 一連のショートショートの最初に書いたのがこれ。
笑顔の化石
ミドリは谷の入口に立っていた。
アフリカの大地溝帯に刻まれた無数の小さな谷の一つ。一見これといった特徴はなかった。谷の名はケラケラという。現地の言葉で人が人になった場所という意味だ。
不思議な言い伝えがあり、現地の人は決して踏み込まない。笑顔の美しい人がこの谷に入ると谷に取り込まれ二度と出てくることはないというのだ。
ミドリの兄は考古学者だった。
この谷で人類進化の証拠が得られるとして、調査隊を組み谷に入ったまま、行方不明となってしまった。 調査隊5人と現地の人15人の内、ミドリの兄だけが忽然と姿を消したのだ。直ぐに捜索隊が送られたが、不思議なことにケラケラ谷を見つけるさえできなかった。
そして2年、再び調査隊が組まれた。ミドリはその一員としてここにいる。
調査隊はしばらく入口に留まり、周辺を調べた後、 万が一の事態にそなえ日本人2人と現地の人3人を谷の入口で待機させ、 谷に入っていった。
200メートル程進むと谷は右に曲がり、急に狭くなった。谷底は2メートルくらい。 両側の崖は垂直に近く、高さは100メートル近かった。 正午近いというのにこの狭い路はかなり暗い。
危険がないか注意を配りながらゆっくりと進んだ。
と、急に開けた場所に出た。 直径50メートル程度の円形の広場のような場所で回りの壁は相変わらずほぼ垂直だ。 底まで太陽光も届いている。 中央にはわずかばかり草が生えている。
それまでピリピリとしていた隊員の表情が明るくなった。
周囲の壁一面に無数の笑顔があるのだ。つられるように皆笑い出した。
笑顔の化石だ。おそらくヒトが笑顔を獲得してからずっと、 笑顔が記録され続けてきたのだろう。
しばらく回り歩くうちに 一つの笑顔が自分に微笑みかけているのをミドリは感じた。たまらない懐かしさに包まれた。
兄だ。それは兄の笑顔だ。
調査隊の一人がミドリがいなくなっているのに気付いた。
谷から出た様子もない。調査は打ち切りとなり捜索が始まった。
だがミドリを発見することはできなかった。
兄に寄り添うようにミドリの笑顔の化石があった。
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