◇「アブハチ取らず」と「二兎を追う」は違う
簡単に手に入りそうな物があるのに、少しだけ良さそうな 別の物に手を伸ばし、簡単に手に入るはずだったものさえ 失うことは良くあります。
「アブハチ取らず」といいます。
クモが網にかかったアブを食べようとしたとき、ハチも かかったので、「アブよりはハチが食べたい、ハチがだめ ならアブでいいや」とハチを食べようとしたけど逃げられ てしまい、そうこうしている内に簡単に食べることが できたはずのアブも逃げてしまった、という話です。
クモは決して「両方欲しい」と思ったわけではありません。
見落としてはならないのは
- 別のアブがかかったとしてもクモはおそらく気に留めることはなく
より美味しそうなハチがかかったので迷いが生じた
「アブハチ取らず」は、一般に
- 高望みをして手近なものさえ失う ○
- 目移りしている内に皆失う ○
ところが、辞書などの説明ではなぜか
- 複数のものを同時に求め失敗すること ×
- 「二兎を追うものは一兎をも得ず」と同じ ×
この説明は間違っています。
複数といってもアブとハチの両方が欲しいわけではありません。ハチが 手に入ればアブは取れなくても構わないのです。
欲を出すという意味 では同じでも、「アブハチ」は質に関する欲であり、 「二兎」は量(あるいは異なる複数目的)に関する欲なのです。
「目標を絞りきれていない」という意味では同じでも「アブハチ」 は明らかに片方を"楽に取れる"とし、いいものを求めている のです。これに対し「二兎」は全く同等に欲しいのです。
アブとハチでは価値が違うのです。二兎に価値の差はありません。
一般の人々の用法(即ちこれが正しい)と辞書などの 説明が異なる(即ち、説明を間違う)理由は明らかです。
説明を行う言語学者(日本語学者)が
- 昆虫に興味がない
- アブとハチの区別が付かない
- アブとハチが価値の差を表しているということが分からない
述べようとしている事柄の本質外の知識あるいは興味が必要となることはよく有ります。
それが無いまま間違った説明を行うこともままあります。
あるいは明確な知識のないまま本題の補足説明に使ってしまうこともあります。
これを
「知らぬアブハチを語る」と言います(ウソです)。
### とはいえ
言葉の解釈は人によって異なる場合があります。
アブの研究者はこの言葉を「表面的なきらびやかさに
惑わされ、本当に価値のあるものまで失うさま」
と解釈してもおかしくはありません。
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知らぬアブハチを語ること自体は問題ありません。
このブログでは知らぬアブハチを語りまくっています。
問題は権威がそれに付く場合です。辞書、教科書などに
記述する場合は、良く検討を重ねる、あるいは、
間違いの可能性があることも明示する必要があります。
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本物のクモがアブよりハチを好むかは分かりません。
人間の価値感をはめたものです。
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なぜハチの方がアブより価値が高いと感じるのでしょうか?
ハチは危険さはあるけど美しさを感じさせます。これに対しアブ
はなんとなく穢い(きたない)感じがします。
(アブって大きなハエだもんねえ)
ハチを主役にした童話はあってもアブを主役にはしないですよね。
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この記事は、
[◆ミツバチかハナアブか(見分け方)]の"###蛇足部"に書きかけたのですが、
分野が異なるので別記事にしました。
### 2011/2/15 タイトル変更
"アブよりハチがいい;二兎を追った訳じゃない"
から
"「アブハチ取らず」と「二兎を追う」は違う"
にタイトル変更
2021/06/13 感銘を受けた言葉
「二兎を追う者だけが二兎を得る」
素晴らしい言葉です。
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