◆くびれは麗し；2001年宇宙の旅の照明の研究
映画「２００１年宇宙の旅」には２重輪の車輪あるいは水車の ような形の宇宙ステーション"ステーション５"が登場します。
[◆三日月号発進！]で宇宙船ディスカバリーの照明に関して述べましたが、
この宇宙ステーションに関しても工夫の行き届いた照明がなされています。
そしてく、びれた胴のデザインも照明のためのものなのです。
シーン構成
ステーション５は７つのシーンで登場します。
- シーン1:地球をバックに画面中央から手前に迫ってくる
- オリオン号/ペン/室内前方から/スチュアーデス/靴/ペンを取る/ペンを戻す
- シーン2:月をバックに遠くを移動する。シャトル"オリオン号"がそれを追う
- シーン3:地球をバックに奥へ進む。オリオン号がそれを追う
- シーンw1:オリオン号の操縦席から見たステーション５
- オリオン号操縦席の計器類/ステーションのドック内
- シーン4:Bリング側から見たステーション；向こう側にオリオン号
- シーンw2:オリオン号の操縦席から見る；位置固定でバックが回る
- シーン5:カメラがリング間をすり抜ける
特にシーン１は最初の登場シーンでステーション５の形を観客に印象付ける大事 なシーンです。
(CGアニメーションを作成し [◆2001年宇宙の旅；ステーション５のＣＧ動画] に展示してあります。 シャトル-オリオン号も追加されています）
ステーション５のデザイン
ステーション５は２重の輪と輪の中央部に軸、軸と輪をつなぐ十字のスポーク
からなります。
輪の片方は建造途中で骨材が見えています。
軸は中央がくびれた糸巻き状の形をしています。
シーン１の照明
シーン１ではBリングの影が軸に落ちます。
しかし、画面では軸上に影は殆ど見えません。
実はBリングの影は、カメラから映らない軸のくびれ部
の斜めになった部分に落ちているのです。
軸にくびれがない場合右の様な絵になります。
軸に落ちるBリングの影で、軸が不自然に
断裂して見えます。
また、Aリングに落ちる軸の影も大きくなります。
軸が糸巻き状のくびれを持つのはこの影を嫌ったものです。くびれの角度、大きさも照明との兼ね合いで設計されています。
くびれが元からあり、それに合わせて照明を行ったのではなく、 照明の要請からこのデザインがあるのです。
Bリングが工事中となっている理由は、
一つは、Bリングが作る影を薄めるためですが、
他にも絵のしつこさを避けるためと、
同じ形が近くに並ぶと間に鏡があるような錯覚に陥ってしまうことを
避けるためです。
さらに、色味を付ける意味合いも大きいと見られます。
Bリングが工事中でない場合の絵を右に示します。
シーン３の照明
シーン３ではBリングの影が軸のくびれ部に落ちます。
しかし、やはりこの影は殆ど見えません。
実はくびれ部の影部分はカメラからはリングAに隠れます。
くびれがない場合軸部に落ちるBリングの影が隠し難く
なります。
加えて、軸がAリングに落とす影が大きくなります。
Bリングを工事中でなくすと、落ちる影が強くなります。
なにより、色合いの単調さが気になります。
シーン４の照明
シーン４ではカメラはBリング側に移ります。
これに応じ太陽はAリング側に移ります。
Aリングの影が軸に落ちます。しかし、
太陽光がくびれの斜め部分にあたり、強い反射光が
くびれ部を照らしています。
また、Bリングの影とことなり固定であり、
Aリングの影のような目ざわりさは生じません。
シーン５の照明
シーン５ではカメラはリングとリングの間を進みます。
リングAの影は軸には落ちずリングBに落ちます。
リングBに落ちた影は画面には映りません。
画面は傾き、影の部分は画面より下になっているのです。
影のサイズ、ボケ具合
ステーション５の照明では太陽の影が少し広がるように調整されている
ように見えます。
距離が少し離れただけで、影がぼけるのです。
これにより鉄骨部が細かな線状の影を落とさず、鉄骨部全体が半透明で
あるかのようになります。
まとめ
このように、ステーション５の軸部の糸巻き状のくびれデザインは
工学的要請によるものではなく、照明の都合によるものとなっています。
もちろん、輪が２重でなければ、照明、カメラ位置の苦労は少なかった
とは思いますが、それでは余りにも在り来たりのデザインになってし
まいます。
２重にしながら、そのために出来てしまう影の問題を回避するデザイン。
それが"くびれ"なのです。
＃＃＃ 2008/1/28 シーン４，５の説明に図を追加
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