◇進行形と完了形;土佐弁考察
色々な地方の方言に関して記述した書物は沢山あります。
当然土佐弁に関しても述べています。
しかし、不思議なことに、土佐弁の核心というべき進行形と完了形の
区別に関しては殆ど触れらることがありません。
土佐弁には進行形と完了形の区別があるのです。
例えば、「読んでる」という表現は
- 今、読みつつある:進行形
- 今はもう、読んだ状態にある:完了形
土佐弁ではこの2つが明確に区別されます。
- 「読みゆう」今、読みつつある:進行形
- 「読んぢゅう」今はもう、読んだ状態にある:完了形
誤解していけないのは、完了形はあくまで今の状態を述べているのであって、
過去について述べているのではないということです。
基本的には英語の進行形、完了形とほぼ同じです。(英語を持ち出さないと
なかなか理解してもらえないところがちょっと悲しいですが)
- I am reading the book.;今読んでる/読みつつある;読みゆう
- I have read the book.;もう読んでる/読んだ状態にある;読んぢゅう
日本語では「持つ」「知る」は状態語ではないので、have、knowは 完了形に対応します。
土佐弁では当然完了形を用い「持っちゅう」「知っちゅう」となります。
- I have a pen.;持っている/持った状態にある;持っちゅう
- I know that.;知ってる/知った状態にある;知っちゅう
進行形、完了形はその区別が必要となる場面は少ないということも理解する ことが難しい 原因かもしれません。例えば「知りつつある」 という状況は少ないし、「雪が降っている」というときに「雪が降った状 態にある」という場面もそうそうはないでしょう。
学者、あるいはそれに準ずる人の記述でも「進行形」「完了形」がちゃんと
挙げられないくらいだから、TVドラマや映画での土佐弁にちゃんと反映
されないのは仕方ないことかもしれません。
「ぜよぜよぜよぜよ」ばかりが土佐弁ではありません。
きちんと進行形、完了形の区別を用いればとても自然になります。
高知で英語を教える場合、進行形と完了形の違いは「読みゆう」と 「読んぢゅう」の差だよと言えば理解は早いはずです。
活用形は次のようになります。
時制(相) | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 仮定 | 命令 | 未然(う) | 連用(た) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
進行形 | よら | より | ゆう | ゆう | よれ | よれ | よろ | よっ |
完了形 | ちょら | ちょり | ちゅう | ちゅう | ちょれ | ちょれ | ちょろ | ちょっ |
「寄っちょれ」は「寄った状態にあれ」という完了命令形です。
なお、「ゆう」は「よる」、「ちゅう」は「ちょる」と言う地域もあります。
### 補足(蛇足)
映画「鬼龍院花子の生涯」で、夏目雅子が
- 「なめたら、いかんぜよ!」
- なめていては、いけません;なめるということの進行を許さない
- 「なめよったら、いかんぜよ!」
"なめられている"という現状を認めない強さを示す意味で単純仮定形 を使ったと考えられないこともありませんが。
まあ、「なめたら、あかんぜよ」などと関西弁まじりにされなかった だけマシと思わないといけないかもとも思います。
### さらに蛇足
英語の進行形、完了形とほぼ同じですが、完了進行形のような表現はありません。
I have been reading the book for two years.
この文だと「もう2年間、その本を読みよります」あるいは
「もう2年間、その本を読んぢょります」とどちらも不自然でないところが
完了進行形ならではですかね。
### さらにさらに蛇足
進行形、完了形の区別のある世界から、区別の無い世界に来て、話が通じなかった
ことは2度あります。
一度は、スキーに行った時。その年は暖冬で雪が無いかもしれないという状況でした。
バスの窓から外を見ると、「雪が降った状態」だったのです。
で、僕は「雪降ってるよ!」と発言。もちろん心は完了形「雪降っちゅう」です。
が、外を見たみんなは「降ってないじゃん」という反応。
もう一度は、会社に入ってから。
「ドキュメントできた?」と聞く上司に「書いてます」と答えました。心は進行形
「書きよります」だったのですが、上司は完了形「書いた状態にある」と
受け取り、怒らせてしまいました。
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