◆三日月号発進!「2001年宇宙の旅」に於ける照明の研究;CGによる検証
映画「2001年宇宙の旅」におけるディスカバリー号と
カメラの位置、太陽の位置関係をCGを使って明らかにします。
なお、この記事の写真は全てCGです。映画のキャプチャ
ではありません。
映画「2001年宇宙の旅」に登場するディスカバリー号という宇宙船は、
球体の頭と、長い背骨から
構成されています。上の写真はCGで再現したものです。細部まで正確に
作りこまれてはいませんが、雰囲気は分かるはずです。
映画の画面にほぼそろえてあり、太陽光の方向もそろえました。
左の写真と同じ状況を真上から撮ったものを右に載せています。矢印は太陽光の向き
を示します。
2つの場面A,Bで太陽の向きが異なっていることが分かります。
上面図では示していませんが、Aはかなり下方から光が当たっています。
試しに、それぞれ照明を交換すると次のようになります。
A-BはBの照明を当てていますが、ちょうど全体が陰になります。船体
のちょうど向こう側だけが照らされている形です。
B-Aも太陽光が殆ど陰になってます。
映画ではカメラの向きに合わせ、見栄えのする照明を行っているということが分かります。
もう一つ別の場面も見てみましょう。
ボーマンがアンテナの部品交換のためにポッド(目玉形の小型宇宙艇)で
ディスカバリー号から出る場面です。
頭部を右舷側、若干前から撮影しています。
太陽の方向はBに似ていますがBより上方に移っています。
前面に照明を当てながら、かつポッドベイの口の部分が影に入る
よう工夫しているのが分かります。ポッドベイの口に光を当てない
ことにより、ベイの口が開いていること、そこから見える明るい
内部が効果的に表現されています。
ここまではカメラは常に右舷にあり、太陽の光は左舷横方向から来ています。
映画では最後の方で初めて左舷側が描写されます。
ボーマンが左舷にあるエアロックの扉にポッドで近づく場面です。
ここでは、その直前、ポッドとディスカバリー号が向かい合い、
HAL(ディスカバリー号のメインコンピュータ)に対しポッドベイ
の口を開けるようボーマンが命令する場面と、エアロックに近づく
場面を示します。
Dの太陽はCの太陽と近い位置にあります。
Eでは中央部、エアロック入り口がポッドのライトで照らされています。
ポッドからの視点なのでポッド自体は写っていません。
太陽の光はエアロック入り口を照らさない位置、後ろ右舷側に移っています。
DとEは映画の中で時間的に大きく離れてはいないので、本来なら
Dの太陽の位置と同じはずですが、Dの位置では、エアロック入り口
部にまで太陽の光があたってしまいます。
EにA~Dの照明をあてたものを示します。
DからEに移るまでに方向が変わらなければ本来はE-Dのような形となる はずです。E-Dで太陽光を若干弱くしたものを示します。
この太陽の位置ではEに比べ、いくら光の強さの調整をおこなっても、
のっぺりとして魅力の無い絵になってしまいます。
右舷からの撮影では常に左舷にあった太陽が、左舷の撮影では右舷に
移ったのはこのためでしょう。
ポッドの照明がエアロック入り口を照らすことにより、観る者の注意
を集中させる効果も持ちます。
頭部の球体を撮影する場合、主光の当たる面を大きくすると、立体感
の乏しい絵となります。
主光を後方に回し、当たる部分を小さくすることにより立体感を出し、
かつ補助光との光量の差を極端にとることが可能で、
本来宇宙空間にないはずの補助光を補いながらも、リアルな絵を得る
ことができます。
このように「2001年宇宙の旅」のディスカバリー号は、頭部球体
をメインに撮る場合は、常に画面右後方か
ら強い照明を当て、手前から弱い補助光を当てるようになっているのです。
カメラの位置によって照明が変わります。つまり、カメラの位置によって
太陽の位置が変わるのです。太陽は常にディスカバリー号を美しく照らす
ために存在している訳です。
ディスカバリー号は話の筋とは無関係にどこから見ても三日月なのです。 三日月号なのです。
###
ステーション5の照明に関しての記事を
[◆くびれは麗し;2001年宇宙の旅の照明の研究]
に載せてありますので、ぜひご覧ください。
ここに載せた映画のシーンを模した画像の拡大版を
◆2001年宇宙の旅;CGギャラリーに置きました。
### 補足(蛇足)
頭部をメインとしない場合は、必ずしも三日月照明とはなっていません。
背骨側から撮る絵などです。頭部をメインとしない写真Aも三日月照明ではありません。
常に美しい形で撮られるディスカバリー号ですが、木星到達時には
真後ろから見た形が描かれます。この絵を入れた目的は全くの謎です。
別の宇宙船だと思った人もいるとか。
### 蛇足-2
今回作ったディスカバリー号のCGモデルは内部構造も作ってあり、
構造に関する記事を
[◆2001年宇宙の旅、ディスカバリー号の構造]
に載せました。
### 蛇足-3
「2001年宇宙の旅」を最初に見たとき、幾つかの画面で、
頭というか感覚が混乱してしまいました。
Eのシーンもそうです。
Dの後、ボーマンはディスカバリーから一旦離れ、プールを宇宙空間に離し、
戻ってくる。
戻ってくるとディスカバリーの向きが90度変わってしまっている。
D、Eで太陽の位置が90度変わるが、映画を見てる僕には、当然ディスカバリー
が向きを変えたと見えたのです。
もちろん、物語として、そこでHALがディスカバリーの向きを変えたと
いう解釈も出来なくはありませんが、ちょっと無理があるように思います。
もし、仮に物語として、ディスカバリーが向きを変えたとなっている
としても、それは左舷の絵を美しく見せるためだけに、付けた話でしょう。
もう一つ、太陽の問題で混乱してしまった画面があります。
回転する宇宙ステーションにシャトルが近づくシーン。
シャトルの操縦席の窓から宇宙ステーションが見えているのですが、
シャトルは宇宙ステーションに同期して回転しており、宇宙ステーション
は画面上固定で、星がバックで回転している。
しかし、照明(太陽)が常に宇宙ステーションの左から固定で当たって
いるのです。本来ならバックの星と同じように太陽の位置が変わらなければ
いけません。
僕は自分(というかシャトル)が回転しているのか回転していないのか
分からない混乱した感覚をもってしまいました。
さすがにこれは物語り的解釈は不能でしょう。
多分、太陽の位置が変わるものも撮影したけど、画面上わずらわしく
なるのでボツにしたんではないかと思っています。
「2001年宇宙の旅」に関しては結構いろいろアラ探しが行われる
のにこのあたりの指摘は目にしたことがありません。殆ど
の人は気にならないんでしょうね。
もし僕が監督なら、多分、わずらわしい絵にしてしまっただろうなと思います。
### 蛇足カット(実は延々と蛇足が続いたのだが、カット)そのうち別記事で
### 12/5修正:[ディスカバリー号の構造]へのリンク変更
| 固定リンク